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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)1853号 判決

控訴人 王永亮

被控訴人 高長増

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、本案前の申立として「原判決を取り消す。本件訴を却下する。」本案に対する申立として「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠関係は、次の点を附加補充するほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

被控訴人は、

一  本案前の申立に対し、

被控訴人林憲栄は昭和四三年三月一二日死亡し、留日華僑北省同郷連合会は同月二二日章程(会則)第一一条第二項により高長増を会長に選任し、同人においてこれが就任を受諾した結果、本件訴訟上の地位を承継した。したがつて、本件訴訟は当事者の死亡により終了することはない。けだし、高長増は民事訴訟法第二〇八条にいう「その他法令により訴訟を続行すべき者」に準ずべきものと解されるからである。かりにかかる見解をとりえないとしても、本件の場合は同法第二一一条による受託者の交替に準ずべきものと解すべきであつて、高長増は新受託者として本件訴訟上の地位を承継したものというべきである。

二  本案につき、

(一)前会長林憲栄は昭和四三年三月一二日死亡し留日華僑北省同郷連合会の会長としての地位を失つたが、被控訴人は昭和四三年三月二二日開催の理監事会において会長に選任され、前会長林憲栄の法律上の地位を承継した。よつて被控訴人は本件土地建物の登記名義人である控訴人に対してその所有権移転登記手続をなすべきことを求めるものである。なお右被控訴人を会長に選出した理事および監事は、昭和三七年六月一五日東京都千代田区神田駿河台全電通会館において開催された会員大会において選出されたものである。

(二)ところで留日華僑北省同郷連合会会則第一一条は「本会の理監事は会員大会において之を公選する。会長副会長は理事より理監事会において之を選出する。」と定め、同第二二条は「定期会員大会は会長、副会長、理事、監事の選挙を行う。」と定めている。右両条に公選、選出選挙の語が用いられているが、これらの異なる用語にはそれぞれ異なる意味がこめられている。すなわち、理事および監事は会員大会において大会自体の手続において公選される。会長、副会長は理事のなかから理監事会において選び出す。会長、副会長、理監事は定期会員大会ごとに改選する。このように解するのが正しい。第二二条にいう「選挙」とは改選という程の意味である。

右のように解することは、従来の役員選挙の実際にてらしてもその正しいことが判る。すなわちいままでも五回の大会ごとに役員が改選されているが、昭和二五年の創立大会を除いて会長(もとは理事長)が大会で直接選挙されたことはない。控訴人王永亮自身創立以来昭和二九年に至るまで四次にわたつて会長(もとは理事長)の職にあつたが、創立大会を除いて直接に大会で選挙されたことは一度もなく、必ず理監事会において選ばれて来たのであり、前会長である亡林憲栄の場合も同様である。

仮に右のような会長就任手続が会則第二二条に反しているとしても、理監事会による会長選出の手続はむしろ慣行化し承認されていたものと解せられるところ、前記会則第一一条と第二二条とは一見矛盾する規約であるが、右慣行化された選挙方法を考え合わせると、いずれの選挙方法を採用するかは各大会毎にその大会出席者が任意に決定し得るものと解するのが相当であり、控訴人主張のように必ず会員大会が直接会長、副会長を選出しなければならないとする理由は見当らないから、前述の手続によつてなされた被控訴人の会長選任は有効である。

(三)控訴人の主張に対して

(イ)控訴人主張の第五回大会の召集手続において、一部の会員に通知しなかつた事実は否認する。

(ロ)昭和三七年六月一五日の会員大会で理監事が選任された後改選されず現在に至つていることは認める。

と述べ、

控訴代埋人は、

一  本案前の申立につき、

被控訴人林憲栄は留日華僑北省同郷連合会の会長たる資格にもとづき本訴を提起したが、昭和四三年三月一三日死亡した。ところで、右の会長たる資格は承継に親しまないから、本件訴訟は林憲栄の死亡により当事者の実在を欠くにいたつたものとして却下を免れないものである。

二  本案につき、

(一)昭和三七年六月一五日全電通会館で開催された第五回大会は、亡林憲栄および訴外呉普文その他が中心となつて開催を計画し、会員中台湾政府に同調する分子と一方的に判断した者多数に対して故意に大会開催の通知を発せず大会に参加する機会を与えなかつた。したがつて右第五回大会の招集手続は右連合会の章程第二〇条に違反するか、然らずとするも著しく不公正であるから、権利能力なき社団すなわち人的結合である右連合会の性質にかんがみ右第五回大会は適法に成立しなかつたというべきである。

よつて右第五回大会における理監事の選任は無効であるから、仮りに被控訴人がこれらの理監事によつて会長に選任されたとしても、右連合会の会長としての資格を有しない。

(二)仮りに昭和三七年六月一五日開催された右第五回大会が適法に成立し、被控訴人主張のように理監事が選任されたとしても、その後約八ケ年を経過した昭和四三年三月二二日当時右の理監事がなお会員の信任を得ていたかどうか甚だ疑問である。会則第二〇条は、理監事の任期を二年と定め、会則第二一条が会員大会(理監事は会員大会で選出される)を隔年に招集すべきことを定めているのも、理監事の職責の重大さならびに会員の信頼を基礎とするものであることにかんがみ、二年ごとにその時点における会員の総意に基づき理事および監事を選任しようとするにある。昭和三七年六月一五日以降全然会員大会を招集せず、八ケ年以前に選任されたままの理監事が新たに会長を選任することは人的結合である右連合会の特質から見て著しく不公正である。したがつて被控訴人は連合会の会長たるの資格を有しない。

と述べた。

証拠〈省略〉

理由

一  本案前の申立につき、

被控訴人林憲栄が昭和四三年三月一三日死亡したことは当事者間に争いがない。しかし、本件訴訟は同被控訴人において権利能力のない社団たる留日華僑北省同郷連合会の会長たる資格にもとづき提起した所有権移転登記請求事件であつて、その請求権は同会の会長たる資格に随伴するものであるから、本件訴訟の当事者たる地位は会長の異動に応じて承継され、訴訟は終了することがないものといわなければならない。この場合、相続に準じて民事訴訟法第二〇八条第一項を適用するか、信託の任務終了に準じて同法第二一一条を適用するか、はたまた資格喪失に準じて同法第二一二条を類推するかは、問題であるが、少なくとも会長は同会よりその財産の信託を受けたものと解してよく、会長たる被控訴人林憲栄の死により受託者の交替あるものとして新たに会長に選任された高長増(選任の効力いかんは別問題である)において当事者たる地位を承継するものと解すべきである。したがつて、本件訴訟の当事者を欠くにいたつたとする控訴人の主張は理由がない。

二  本案につき、

当裁判所の判断は、次の点を附加補充するほか、原判決理由記載と同一であるからこれを引用する。当審証人呉普文の証言は右認定の正しさを更に強めるものであり、当審における証人何致平の証言および控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分はたやすく信用することはできない。

一、控訴人は、昭和三八年六月一五日の第五回大会は多数の会員にその通知をしないでされたものであるから適法に成立しなかつたと主張するが、原審証人呉普文の証言により成立の認められる甲第五号証、同第六号証の一、二ならびに原審および当審証人呉普文の証言によれば、右大会を開催する旨の通知は原審も認定しているとおり全会員に対して発送または交付され、さらに開日の三日前発刊の新聞紙上にもその招集広告を掲載してその周知徹底をはかつたことが認められる。

もつとも当審における控訴人本人尋問の結果その成立を認め得る乙第四号証の一ないし二〇には右通知が一部会員に対して為されなかつた旨の記載があり、また証人何致平および控訴本人も当審において同趣旨の証言あるいは供述をしているが、これらの記載、証言および供述は、弁論の全趣旨により成立を認め得る甲第一七号証および前段摘示の各証拠にてらしてたやすく信用することができないし、その他右認定を覆すに足る証拠はない。故に右第五回大会が適法に成立したということができる。

二、そして当審証人呉普文の証言および同証言によつて成立を認め得る甲第一六号証の一、二によれば、昭和四三年三月二二日被控訴人は東京都新宿区四谷二丁目二番地北省同郷会館会議室において開催された緊急理監事会において会長に選任された事実を認めることができる。

控訴人は右被控訴人を会長に選任した理監事は昭和三七年六月一五日開催された第五回大会で選任されたものでその後八年を経過し、会員の信任を得ているかどうか疑問であり、このような理監事によつて被控訴人を会長に選出することは著しく不公正であると主張し、右理監事は昭和三七年六月一五日の大会で選出されたものでその後改選されず現在に至つていることは当事者間に争のないところであるが、それだからといつてこれらの理監事が会員の信任を得ておらずまた右会長選挙が著しく不公正であるということはできず、その他右選挙を無効ならしめる何らの理由を認めることもできない。

よつて本件控訴を理由のないものとして棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷部茂吉 鈴木信次郎 麻上正信)

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